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題名『夢幻のような君に触れる』
全年齢 男性一人用 10〜15分程度
男子大学生。軽くナンパなイメージを持たれている。好きだと言ってくれている同じ大学の女の子がいる。その子には冷たい態度をとる。男子の父親は大企業の社長。反発して今は家を出て自活中。
〈タイトルは変更していただいても構いません〉
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あっれー?
何で俺んちの前にいんの? こんな遅くにさ。
あっ、まさか、俺に抱かれに来た?
そっかー。どうしよっかなー。
…で。なんか俺に用事?
ここで話してると近所迷惑になるんだけど。
ま、時間も遅いし、うち、入る?
でも、男の一人暮らしの部屋に入るんだから、覚悟してよ?
…まぁ、俺はあんたには手を出さないけど。
はい、どうぞ。そっちのソファー座って。
で、ほんとに何なわけ?また説教しに来たの?
まぁ、今日も授業サボったしな。
悪いけど、バイト代、稼がなきゃならないからさ。
そこんとこは上手くやってるし、うるさく言うなよ。
あんた、あの後輩くんとデートじゃなかったの?
なんかあの後輩くん、俺のこと睨むんだよな〜。
全然、絡んだことないのに。
後輩くん、あんたにベタ惚れじゃん。
もう付き合っちゃえば?
あんなに想われたら幸せじゃん。
で、ここにきた理由はなに?
「最後の告白」をしに来た…?
あんた、俺のこと好きっていうけどさ。俺の評判知ってるよね?
大学の友達からきいてるでしょ?
彼女がコロコロ変わる、軽い人だって。
…まあ、最近は大人しいけど…。
なのになんでこんな男を好きとか思える?
俺だったらごめんだね。幸せになれないじゃん。
「それでも好き」ってなんなの…。
あんたも同じじゃないの?
愛想いい時の俺に惹かれて近づいてきて。
ちょっと優しくしたら、好きって言ってきて。
でも、表面上の俺だけみて中身はなんもないってわかったら、すぐ離れてく…。
みんな、離れていくんだ…。
親父に反発して、今はうち出てるけど…。
そんなに出て行きたいんなら、生活費とかは自分でどうにかしろっていう条件。
でも親父から離れていられるのも、大学卒業まで。
会社にまったく関わらなくていいかと思ったら、時々、親父の部下に突然拉致られる。
どっかのホテルのわけわかんないパーティーに連れてかれて、親父のすぐ後ろを歩かされてる。
希望なんてまるでない。
中学の時から似たようなことやらされてて、甘酸っぱい青春だとか、男同士の熱い友情だとか、そんなもの味わったことない。
将来、好きな女と結婚するのも叶わない。
愚痴なんか言ったって、誰にも届かない。
感情的になるのも疲れて、妙に冷静になった。
…流されてたら、楽になった。
でも…、でも最後に少しあがいてみたくて、今こうしてる。
ちきしょっ…。
俺、なんでこんなこと、あんたに話してんだ…。
ありがとうなんて言うなよ。
そんな優しい気持ちで俺を見守んなよ。
だから、こんな男に引っかかるんだ。
俺はやめとけよ。あんたが幸せになれない…。
帰るのか?
そっか…。
さっき“最後”って言ったもんな…。
大学で会っても、もうただの“顔見知り”だな…。
ん。じゃ…。
待って!
あの後輩のところに行くのか…?
……行くな。
行くな…、行かないでくれ!
あんたバカだよ。
俺、傷つけること、いっぱい言ってきたろ?
なのになんで泣きながら笑顔見せんだよ。
俺なんかの近くにいちゃいけないと思って、わざと冷たくしてたのに。
なんで、笑顔みせてくれんだよ。バカだよ、あんた…。
でも…でもあんたが頭ん中から離れない。
ここがぎゅって痛くなる。心ん中にあんたが住み着いてる。
俺の心ん中にズカズカ入り込んできて、あったかくしてる…。
俺、こんなんなのに、あんたを好きでいていいの?
この気持ちは許されるの?
こうやって抱きしめることも許されるの…?
号泣してんね…。
俺の代わりに泣いてるみたい。
俺、情けない男だよ。バカな男だよ。
でも、心ん中にあるあったかい気持ちが今までとは違うのは確かで。
それがあんたといることで何倍にもなるのなら…。
あんたが俺と一緒にいることで、幸せを感じてくれるのなら…。
俺のそばにいて?
あー。これ、前に借りたハンカチ。
その…中にはさんであるやつ、やる。
四つ葉のクローバー。
この前、あんた、必死に探してたから。
俺はそんなもの興味なかったけどさ、あまりにも一生懸命に探してるから、ネットで調べたりした。
四つ葉のクローバーは見つけたら、幸せになれるっていうのは知ってるよな?
だから、探してたんだろ?
クローバーにも一応花言葉ってあるの、知ってるか?
そんなもの、俺が調べるのも似合わねえけど…。
“私のものになって”
四つ葉のクローバーの花言葉は“私のものになって”なんだって。
俺、それ見たらさ、何か必死に探しちゃって…。
この前、バイトの夜勤明けに、あそこの公園のとこにあったの、見つけた。
結局渡せなくって、しおれてるけど…。
渡して、どうしようとしてたんだろうな…。
こんなんなっちゃったけど…。
はい。
もらってくれるか?
お願い。
“俺のものになって”。
また泣く…。
ごめんな。いっぱい傷つけてきて。
ごめんな…。ごめん…。
本当は、あんたを俺だけのものにしたい、俺以外の男に触れて欲しくない、
ずっと俺のこと好きでいて欲しいって都合のいいことばっかり考えてた。
ありがとう。
俺を見捨てないでいてくれて。
あきらめないでいてくれて、ありがとう。
少し抱きしめさせて…。
あのさ…。
今日、このまま抱いていい?
明日、たぶん授業出れなくなるかもしれないけど…、いい?
なんか愛情表現の仕方がわかんねぇ。
俺の気持ちをぶつける方法がこれしかわかんねえんだよ…。
キス…するよ?
(軽くリップ音)
なんか信じられない…。
(リップ音)
……待って。ちょっと俺…、泣きそ…。
こうやって、あんたにキスして触れて。
そんなこと、叶わないって思ってきたから。
ほら、そうやってあんたから抱きしめてくれて俺を甘やかすんだ…。
あんたに説教されるたびに、なんか守られてる気がしてた。
俺、これから足掻くから。
親父のことも、会社のことも。
…あんたのことも。
あー…、それとひとつ教えてやる。
あんたが俺を初めて好きって言ってくれた時さ。
俺はもうとっくに好きだったみたい。
今日は、俺があんたを甘やかすから。
(軽くリップ音)
覚悟して。